謎好きにゃんこの妄想

謎と名のつくものに目がないにゃんこ好きが妄想脳で綴るブログですニャ

アガサ・クリスティ大好きニャ!中でも、何故かクセになる「もの言えぬ証人」

私が推理小説にハマったのは小学生の時。多分3年生とか4年生とかそのくらいだと思います。

いとこの部屋の本棚に並んでいた、中学生か高校生向けの月刊誌に載っていた「キミにこの謎が解けるか?」的な記事(数ページの問題文)を夢中で読み、犯人や犯行方法や動機、トリックなんかを必死で推理し、正解と照らし合わせて一喜一憂するのが楽しくて。しかも私の間取りフェチ心をくすぐるような犯行現場の間取り図が出てきたり、正解の解説を読んで、何気ない描写の中にさりげなく張られていた伏線に「ああ、こういう事だったのか!」と、見事にしてやられる快感に浸ったり。推理小説には私のツボがいろいろ含まれています。


小6の時、教室が図書室に近かった事もあって、元々本の虫だった私はシャーロック・ホームズシリーズを読み漁りました。その時は「シャーロック・ホームズ、面白い!最高!推理小説の頂点だ!」と思ってました。


ところが。

中学生になってから出会ったアガサ・クリスティ


衝撃でした。

何がどうというのが上手く説明出来ないのですが。


ここまで言ってしまうとホームズファンに怒られそうなんですが。
アガサ・クリスティ作品が大人ならコナン・ドイルのホームズシリーズはお子ちゃま、というのが正直な感想。


でもこの評価は不公平です。だって時代が違うんですから。
推理小説というものが生まれて間もない初期のホームズシリーズとクリスティを比べること自体おかしいのです。
コナン・ドイルを始め初期の推理作家がいたからこそクリスティというミステリーの女王がこの世に現れたわけですから。

それでもあえてホームズシリーズとクリスティ作品を比べたのは、シャーロック・ホームズは知ってるけどエルキュール・ポアロミス・マープルは知らない、という人にクリスティ作品が本当に面白い!という事をわかりやすく伝えたかったからです。

たとえ推理小説が好きでなくても、登場人物や物語の舞台となる町や村、古き良き時代のイギリスの生活や風俗、物の考え方や価値観などが垣間見える生き生きとした描写、ヨダレが出そうな料理の数々、日本人にはちょっと不思議な民間療法・・・活字好き、読書好きの方なら好みはいろいろあってもそれなりに楽しめる文章だと思います・・・多分。



クリスティ作品の名探偵と言えばエルキュール・ポアロミス・マープル。クリスティファンの間でもポアロ派、マープル派と分かれているようです。

私は断然ポアロ派です。

卵形の頭、ご自慢のピンと張った口髭、先の尖ったエナメル、もしくはパテントレザー(もしかしてこの2つは同じ?)の靴。超がつく綺麗好きで几帳面。小鳥のように頭をピョコンと傾げたり、自分の事を「比類なき名探偵」と胸を張って自慢したり、ちょっぴり滑稽だけど憎めない、可愛いオジサン、エルキュール・ポアロ

私もポアロさんみたいな推理力があれば、ポアロタイプ(目に見える証拠を探して駆けずり回る活動的なタイプではなく、ご自慢の"灰色の脳細胞"を駆使して自宅から一歩も出なくても事件を解決できる頭脳派。もちろん実際には、あちこち出かけて行って関係者の話を聞いたり現場を訪れたりしますが)の探偵になりたかった!

もしくはクリスティのような推理作家になりたかった!
妄想癖がある私には小説家は向いてるはずなんですが・・・いろんなストーリーを考えつく能力はそこそこあると思うんですが、いかんせん文章力が。



クリスティ作品で有名なのはやはり「オリエント急行殺人事件」「そして誰もいなくなった」ですが、他にも面白い作品はたくさんあります。

私の好きな作品は「もの言えぬ証人」「青列車の秘密」「マギンティ夫人は死んだ」あたり。その時々で若干変わりますが。謎解きやトリックうんぬんというより、登場人物(「もの言えぬ証人」については登場犬物も)のキャラクターが興味深かったり、その人物描写が面白かったり、ミステリーという面を抜きにして単に小説としても楽しめる作品だと思います。だから、犯人もトリックも動機もわかった上で何度でも飽きずに読み返せます。



「もの言えぬ証人」
何と言ってもこの作品の真の主役、タイトルの「もの言えぬ証人」であるワイヤ・ヘア・テリヤのボブ、彼がこの作品の最大の魅力です。「もの言えぬ証人」だけでなく「ゼロ時間へ」や「運命の裏木戸」、短編集「ヘラクレスの冒険」の中の「メネアの谷のライオン」など、クリスティ作品に登場するワンちゃんたちの描写は生き生きとしてユニーク。クリスティは大の犬好きなんだろうな、と思わせます。

クリスティの犬に対する目線は完全に「対等」。ただ「可愛い、可愛い」という愛玩動物として見るのではなく、一つの人格ならぬ犬格として尊重している感じがします。多分ですけど、ワンちゃんに防寒とか以外の単なるオシャレ目的で洋服を着せたり、赤ちゃん言葉で話しかけたりするような人を、クリスティは否定的に見るんじゃないかな?そういう人だったんじゃないかな?作品の中で犬の賢さや生き物としての気高さを表現しているのを見ると、そんな気がします。
(その辺の感覚、凄く共感できます。他にも慈善やフェミニズムに対する考え方なども私と近いかもしれないと感じています)


「もの言えぬ証人」の中でも、ボブは犬らしい自己主張を持った賢くて活発な犬として描かれています。人を見る目もちゃんとある。善良ではあるけれど、余計なおしゃべりをしたり落ち着きがなかったりで雇い主の老婦人をイライラさせる、愚かな家政婦の事は軽蔑して全く相手にしません。
また、クリスティはポアロの口を通して「なぜ犬は郵便屋さんを厭がるのか」を解説しています。とても理にかなったわかりやすい解説です。こういう所からも、クリスティの犬という生き物に対する理解と敬意が感じられます。


ワンちゃんの話ばかりになってしまいました。



あらすじ。

ある日ポアロが受け取った奇妙な依頼の手紙。何日も前の日付の、具体的な依頼内容の書かれていない手紙の差出人を訪ねて行くと、その依頼主、ボブの飼い主でもある老婦人ミス・アランデルは既に亡くなっていた。死因は病死。高齢で、長らく病気を患っていた事から考えても特に不審な点はない。ポアロに届いた手紙の中で仄めかされた「犬のボール事件」と、その莫大な遺産を親族ではなく一介の家政婦が相続したこと以外は。
なぜ、ミス・アランデルは親族を相続から外す遺言状を書いたのか?そして、手紙に記されていた「犬のボール事件」とは?彼女は本当に病死だったのか?


なぜなのか自分でもよくわからないのですが、この「もの言えぬ証人」は私にとって、繰り返し読み返すクリスティ作品ナンバーワンです。
何で何回も読み返したくなるのか?
わからないけど読んでて心地いいんですよね。
ボブの存在もあると思いますが、それだけではない。登場人物たちのキャラクターが面白いというのは確かにあります。例えば、ミス・アランデルの友人ミス・ピーボディとか。が、他の作品と比べて特別魅力的かと言われるとそこまでではない。う~ん、わからない。

平凡で全く知的ではない家政婦が莫大な遺産を相続するというのが、自分の願望と重なってなんか心地いいんでしょうか?宝くじとか思いがけない遺産とか、誰しも多少はそういう棚ぼたを夢見るものですもんね。その割に宝くじ買った事ないですけど。


お気に入りの推理小説があっても、その面白さについて語るのは難しいです。そう、ネタバレというタブーがありますから。

私はこの「もの言えぬ証人」を初めて読んだ時、全く推理が出来ませんでした。出てくる人全てが怪しく見えて、盲滅法片っ端から疑いながら読んでました。そして、まんまとクリスティの仕掛けた罠にハマってしまいました。

そういうことか!この人が犯人・・・そうか、それで・・・
ヒントはちゃんと文章の中に隠されていたのに・・・クリスティは伏線を張るのが本当に上手い作家だと思います。



ここからネタバレあり。



「もの言えぬ証人」はトリックという点で言うと、クリスティ作品の中では今一つだと思います。特に一度目のトライ、失敗に終わった転落事件では、仕掛けをしているところをしっかり目撃されちゃってます。しかも、殺人の仕掛けをするのに自分のイニシャル入りのブローチを付けたまんまでって。ちょっと迂闊すぎるでしょう。しかも、鏡に写ったイニシャルだからTAではなくATだなって、ポアロさんくらいの名探偵ならすぐ気づきそうなもんだけど・・・。
あまりにもバレバレなので、かえって私は深読みしすぎてしまいました。これは、ベラがテリーザの身に付けている物を何でも真似する事、家政婦のミニー・ローソンがいつも寝室のドアを少し開けて寝る習慣がある事、などを利用して、ベラに疑いの目を向けようとテリーザが仕組んだのでは?家政婦に目撃される事を計算して、わざわざベラのイニシャル入りのブローチを付けて犯行に及んだのでは?とか。

蓋を開けてみるとまんまじゃないですか。
まあ、ベラという女性は元々それほど知的じゃないからそんなもんだろうけど。

それでも、ベラの夫に対する恐怖心(と読者に思わせる)の描写、上手いです。すっかり騙されましたよ。
夫に両腕で肩を抱かれて身をすくませるベラ・・・。恐怖心じゃなく嫌悪感だったんですね。

ただ、ポアロさんの「夫のために怖れる事」(夫が疑われているのではないか、と恐れる事)や「夫を怖れる事」はあっても、その両方というのは不自然、という見方には異議あり。だって、人の心は矛盾だらけで理屈に合わない事だらけだと私は思うので。
ベラの子供たちへの愛情はとても強い。いくら恐怖心を抱いているとしても、それでも夫は愛する子供たちの父親。「夫」を怖れると同時に「子供たちの父親」のために怖れる事は充分あり得ると思います。


この作品では、ミス・ピーボディとレックス・ドナルドスンのキャラクターが好きです。単純なグレインジャー医師もいい。


でも、やっぱり一番はボブ!
原作ではヘイスティングスとウマが合ってたボブだけど、ドラマ版ではポアロ大好きの設定に。ラスト、名残惜しそうに小舟に乗って去っていくポアロと、そのポアロを寂しげに見送るボブ。ちょっとキュ~ンと来ました。

あの、ボブ役のワンちゃん、名演技だったなあ。





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