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謎好きにゃんこの妄想

浅~い知識とおふざけ妄想脳で謎解きするニャ🐱

推理小説、しかも短編 なのに読み返す度に泣いてしまう「教会で死んだ男」

アガサ・クリスティ作品に登場する人物の中で、ポアロさんやミス・マープルヘイスティングスなどレギュラー陣を除いて、最も好きなのがバンチ・ハーモンです。クリスティ好きの方ならご存知かと思いますが、牧師の奥さんでミス・マープルものの作品に登場する人です。



「教会で死んだ男」

バンチが登場する作品で好きなのがこれ。短編集のタイトルにもなっています。

ある冬の朝、バンチがいつも通り花を生けようと教会に入っていくと、そこに倒れている瀕死の男。男はバンチを見つめ「ジュリアン・・・」と聞こえる言葉を発し、最期に「頼みます、頼みます・・・」と訴えて亡くなる。まもなく男の遺族と称する夫婦がバンチを訪ねて来て、死んだ男が何か言い残さなかったかを尋ね、形見として男が着ていた背広を持って帰る。
その夫婦に不審を抱いたバンチは、背広の裏地に隠されていた駅の手荷物預りのチケットを手に、ミス・マープルの元に助けを求めに行く。

教会で死んだ男は何故、誰に撃たれたのか?何故、この村に来たのか?駅の手荷物には何が?そして男が口にした言葉「ジュリアン」とは?


この「教会で死んだ男」。私、読む度に泣いてしまいます。推理小説でこんなに泣くなんて思ってもみませんでした。
男が苦しい息でバンチに必死に訴えた「頼みます、頼みます・・・」その言葉に込められた思い、そしてその思いに応えて、男の魂に語りかけるようにラストでバンチが呟く台詞・・・この、バンチのラストの台詞の所で毎回涙が出てしまいます。特別ドラマチックな台詞という訳でもないのに。


バンチ・ハーモン。
牧師の奥さんにふさわしく善良で心が温かく、飾り気がなくてしかも賢い。撃たれて血を流している瀕死の男を見ても怯えず騒がず、冷静にテキパキと救護措置が出来る、肝の座った頼もしい女性。でもでしゃばりでも優等生的でもなく、いい意味で平凡で茶目っ気があってチャーミングで・・・そこにいるだけで場を明るくするような、穏やかな幸せのオーラを持った素敵な女性です。こういう人になれたらなあ、と思うけど、意地悪でひねくれ者で、しかもビビリの私には無理だな。

バンチが特別立派な人とかでなく、良心的ではあるけどごくごく普通の女性で、しかもその台詞が決してドラマチックでも詩的でも感動的な気の利いた名台詞でもなく、何の変哲もないごくごく普通の素朴な言葉だからこそ、読んでいるこちら側の心が素直に反応するんだと思います。



ちなみに英語のオリジナルタイトルは「Sanctuary」神聖な場所を意味する言葉です。sanctuaryの正式な意味は、作品の中でバンチのご主人である牧師さんが詳しく説明してくれていますが、何か難しそうなので、私はそこの所はざっと流し読みして、大雑把に雰囲気だけ掴んでわかった気になっています。

昔、教会は権力者と言えども聖職者の許可なく立ち入る事が出来なかったらしく、罪人や、権力者に逆らって追われた人などが庇護を求めて教会に駆け込む、なんて事もよくあったようです。そう言えば何かの映画か海外ドラマでそういう場面、観た記憶があります。
つまり、Sanctuaryとは単に神聖な場所というだけでなく、聖域、保護や救済を受けられる場所、といった意味もあるみたいです。

教会に倒れていた男も「Sanctuary 」と呟きます。バンチは、撃たれた男が追手から逃れるためにSanctuaryを求めて教会に逃げ込んだと推察します。でも、何故この村の教会だったのか?何でわざわざこんな辺鄙な田舎に来たのか?



短編という事もあって、今作は謎解きと言うよりバンチとミス・マープルの活躍談といった感じです。
ミス・マープルバンチの息の合った連携プレイで悪者たちを引っかけるあたりの小気味良さ。バンチだけでなく、ミス・マープルの元メイド・グラディスやクラドック警部など、マープルチームと言っていい面々も登場し、二人に協力します。
ミス・マープル所長率いる探偵団の事件簿、的な感じでもあります。




ここから多少のネタバレあり。






「○○の思いは時代を超えて万国共通」


クリスティ作品には度々出てくるお決まりのパターンというのが結構あります。「教会で死んだ男」にもそのパターンは出てきます。

いわく因縁のある宝石、それを巡って起きる事件。身元不明の被害者、やがてその身内と名乗る人物が現れて被害者の身元が判明するが・・・という展開。
被害者の身内と称して名乗り出てくる夫婦が下品で感じ悪くて、どう見ても被害者の親族には見えない、というパターンは「なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」と全く同じです。
名乗り出てくる身内が「妻」という「複数の時計」も似たパターン。



余談ですが「複数の時計」と「七つの時計」、どっちがどっちだったか、とっさに区別できずよく混同します。

全盲の女性の家の居間で死体が見つかるのが「複数の時計」。これはポアロがいつも自慢している「椅子に悠然と座ったまま、両の手の先を合わせて灰色の脳細胞を駆使して謎を解く」を実践している作品。もっとも物語は、ポアロの知人でもある、コリンというイギリス情報局の青年が中心となって展開していきます。

セブンダイヤルズという謎の秘密結社を巡って、バンドルというあだ名のお嬢様が活躍するのが「七つの時計」。ポアロミス・マープルも出てきません。ポアロものに度々顔を出すお馴染みバトル警視が登場する作品です。


ちなみに「七つの時計」ドラマ版(昔の)でバンドルを演じたシェリル・キャンベルという女優さん、後に「死との約束」で、下品で横柄で傲慢な、凄~く嫌なオバサン(お婆さん?)役で登場します。そして最初の方で殺されます。両作の間には20年位の歳月が流れていると思いますが、それにしても凄まじい変わりようです。もっともバンドルを演じた若い頃から、上流階級のお嬢様役にしては、お品が今一つ・・・?という感じはしてましたが。下品というわけではないんですが、厚かましそうな感じ。


海外ドラマ、特にイギリスのドラマを観ていてよく感じるのですが、上流階級の子女とか、男性なら絶対に見逃さない程の美女とかいう設定の役に「えっ?」と思うような女優さんを充てている事が結構あって。いや、それだったら友達役のこっちの女優さんの方がピッタリなのでは?とか、他にももっとふさわしい女優さん、イギリスの演劇界にはたくさんいるでしょう、何でそのキャスティング?とか、製作陣にツッこみたくなる事がしばしば。

クリスティ作品で言えば「メソポタミアの殺人」の"麗しの"レイドナー夫人とか、「なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」の"お城のお姫様"フランキーとか。前者は、やせぎすで地味で原作のイメージよりかなり老けてる感じのオバサマ、後者は、貴族のお嬢様にしてはえらく品格に欠けた・・・失礼、ちょっと言い過ぎました、庶民的で、あまり華のない若い女優さんが演じていました。

くどいようですが

「他にもっと役に合った女優さんいるでしょう!」

それか、イギリス人の美的感覚が日本人のそれとかけ離れているんでしょうか?



余談ついでに、私の中の「とっさに区別できずに混同する」作品をもう二組。「三幕の殺人」と「魔術の殺人」、「愛国殺人」と「予告殺人」。
「三幕の殺人」と「魔術の殺人」は、どちらもお芝居に関係する人物が出てきて、その事が謎解きにも関わってくるからだと思います。「愛国殺人」と「予告殺人」に至っては、単に語呂が似ているからだけのような気が・・・。
そうそう、「予告殺人」もバンチが登場する作品です。



「教会で死んだ男」の話。

教会で死んだ男は、元は良家の出ながら身を持ち崩して刑務所に入り、まもなく刑期を終えて出所するはずだった。もう少しで晴れて自由の身になれたのに何故か脱獄し、バスに乗って男にとって縁もゆかりもないはずの村チッピング・クレグホーンにやって来た。しかし、そこで待ち伏せしていた何者かに撃たれる。そして、男は必死に教会に逃げ込んだ。バンチが推察した通り、救いを求めて、だったのか?


瀕死の男が見た光景。

朝の光を反射して、キラキラと青や赤に輝く美しいステンドグラス、それはまるで美しい宝石のようで・・・そして、自分を見つめる心配そうな顔、善良そうで素朴で愛嬌のある女性の顔・・・。
教会というsanctuaryで、男の目にバンチはどう映ったんでしょうか。そして何を思ったんでしょうか。


ラストでバンチは男の魂に約束します。「心配しなくていいわよ。私が必ず●●してあげますからね。」
バンチが言うなら間違いなく●●は果たされると思います。そして男も、その事はわかっていたはず・・・。
バンチの言葉を聞いて、男の魂は救われたと思います。安心して天国に召されていった・・・そう思いたいです。



いつの時代も、洋の東西を問わず、○○の思いは同じ、なんですね。
当たり前ですけど。

でも、当たり前の事が当たり前にならないような事(ややこしい表現ですみません)をニュースなどでしばしば目の当たりにする現代に生きていると・・・


だからなのでしょうか、それとも朝の光が射し込む教会の清らかな空気のせいでしょうか、男が最期に、息が絶えるその時まで必死に願い続けたその一途さゆえでしょうか?

それとも、そんな男への哀れみからなんでしょうか?
脱獄し、警察や自分を狙っているであろう悪人たちから逃れ、バスに乗ってチッピング・クレグホーンにたどり着き、そこで撃たれ、教会に逃げ込み、そこに現れたバンチに必死に訴える・・・
全ては△△のため・・・
その必死さを思うと・・・




何回読み返しても毎回胸がキュッとなって、何だか切ない、もの哀しい、でもどこか清々しい、不思議な気持ちになります。
そして気がつくと涙がこぼれています。




そしてその後鼻水も・・・。

私は泣くと必ず鼻水が出ます。映画やドラマのヒロインのように美しくは泣けません。
だから人前では極力泣かないように気をつけています。元々人に涙を見られるのが嫌だったのもありますが。


そういう訳で「教会で死んだ男」は家で、一人でいる時しか読めません。


バスや電車の中で読む?


とんでもない!


大惨事になりますよ!



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